この春より、齋藤かおるさんの〈理不尽な「今」を生きる哲学 能の祈り〉シリーズの刊行が始まりました。
3月に第1巻「隅田川」が刊行され、このたび第2巻「俊寛」が発売となりました。
日本の伝統芸能である「能」の演目には、さまざまな「理不尽」と向き合わねばならない登場人物たちが描かれています。
観覧者は、そのような物語の不条理をどのように見てきたのでしょうか。
「能の現行曲の中には、どうにも救いの無いような物語が幾つもあります。そして、それらの上演に先立つ解説等において、しばしば無理矢理「救い」が捻り出されがちであることに、私は、違和感を覚えてきています。
(中略)
救いが無いということ、その苛烈な現実を生きるしかない当事者の気持ちは、当事者自身にしかわからないはずだからです。我が子の命を奪われた母親にとって、周囲の人々からの慰めは、ありがたいことではあっても、救いと言えるようなことではないはずだからです。そして、そのような救いの無い現実(この世の無常)の前に、独り立ちすくむことこそ、きっと能が人の命を支えることとの出会いの入口なのであろうと、私は感じてきているからです。
(「シリーズ巻頭言 見所の素人は、何を観ているのか?」より)
能に詳しくない方も、本書で紹介される登場人物たちの境遇や行いに、いつのまにか自らを重ね、心を大きく揺さぶられることでしょう。
各巻それぞれ30ページ前後と、気軽に手に取っていただけるボリュームです。
この秋以降には第3巻「大原御幸」、第4巻「蝉丸」と続く予定です。