妹尾健 近詠句集『旦暮集』

妹尾健さんの句集『旦暮集』。
リトルズで製作をお手伝いした句集です。

著者が所縁の皆さまに配布されたもので、
残念ながら書店等での販売はしていません。

春日暮れ手をあげていう反対と
男ふたり公民館のひな納
落語会笑ってやがて散るさくら
春めくや女子中学生指鳴らす
末黒野に立って叫べば哲学者
よくいえば反骨という灼ける道
身体のどこかが開く大西日
木下闇ボンドとよんでいる男
われら四人野分の後の能登を見に
赤ワイン僧都は残る蚊を打って
寒星や己の姿あきらかに
老人の涎拭わぬ日向ぼこ
コート脱がず慇懃にして無礼なり
枯蘆の見事なまでの呆け方
京菜記す崩し字見事跳ね上がり
初夢に出てくる人をよろこばず
名を知ればみんな呼びたき百千鳥

生活者として、また研究者としてのまなざしから詠まれる句には、
周囲の人々や歴史、風土への深い「愛情」と「抗い」が同時に感じられ、
読み応えのある句集です。
お母様との別れを詠んだ「追母集」の章は、胸をうたれる句がたくさんあり
圧巻です。

いまはまだ母のかたちや西日中
宿敵を失う不安晩夏の日
病葉を踏んでは「私は和子です」
夜の新樹みずみずしきは若き母
百通の葉書も添えて夏の葬

久保純夫さんが「妹尾健句集『旦暮集』評 ― 寒林の哲学者」を寄せておられます。